リスティング広告を運用していると Hagakure という単語をよく耳にしませんか?
今回はこの Hagakure について、解説していきます。
Hagakure とはGoogleが推奨のリスティング広告におけるアカウント構造のことです。
以下がアカウント構築のイメージ図になります。
コンセプトは、「可能な限りシンプルな構造を設計しよう!」というものです。
上記のようなアカウント構造に変化させると、Googleから評価されやすくなります。
Hagakure 構造の「シンプルなアカウント構造」は、なぜGoogleから好まれるのでしょうか。
これはリスティング広告運用における自動化の波が加速し「データを蓄積しやすく、それを改善のために活用できる」アカウントが有利になったためです。
現代のリスティング広告は、機械学習によって入札単価等が最適化されています。そして機械学習を行うためには、膨大なデータが必要になり、そのデータを蓄積しやすいアカウント構造が良いという訳ですね。
逆にアカウント構造が細分化されていると、手動で細かな調整を行える一方、データの蓄積が遅くなり、結果PDCAを回す速度が遅くなってしまいます。
Yahooも同様に、キャンペーンや広告グループなどの構成をシンプルにする構成が推奨されてます。
YahooもGoogleも基本的には同じ検索エンジン、ビジネスモデルです。広告アルゴリズムの多少の差はあるものの、Google同様シンプルなアカウント構造が好まれます。
少し専門的な話ですが、2018年より”CORE”という運用ガイドラインを広告代理店中心に広めているとのことです。Yahoo版の”Hagakure”のようなものです。
Hagakure 構造がリスティング広告の構造設計の考え方だとは理解できたと思います。
Hagakure と従来構造のメリット、デメリットの比較をするにあたり「そもそもアカウント構造ってなに?」という方もいると思うので、解説をしていきます。
広告アカウント構造と品質スコアの関係性を説明していきます。
特にリスティング広告を触り始めたばかりの方は、必見の内容かと思います。Google公式の評価から、 Hagakure構造の推奨理由を考えていきましょう。
Google広告の広告アカウントは、主に4つの階層に分かれています。
キャンペーンが1番上の階層、その中に広告グループが入っており、さらにその中にキーワード・広告文章が格納されているイメージです。下記にイメージ図を載せました。
ではアカウント構造の変化で何に影響があるのかというと、「品質スコア」にが変わります。
品質スコアとは、リスティング広告で入札するキーワードごとに設定されます。キーワード対応する、広告やランディングページの品質を示す値で、1~10で評価されます。
品質スコアが高くなるほど、入札単価を低くおさえつつ、広告掲載順位を上げることができます。なおGoogle広告の画面から確認が可能です。
公式曰く、品質スコアの算定には以下の点が評価されているとのことです。
要約するとキーワードと広告、広告とLPの関係性が高いと良いということですね。 Hagakure 等のアカウント構造に変化させることで、この値が大きく変わります。
ここからは各アカウント構造によって、どのように品質スコアが変化するかにも触れながら解説していきます。
※ 公式ではユーザーと広告という書き方をしてますが、ユーザーはキーワードを使って調べてますので、実質的には「キーワードと広告・LP」の対応関係になります。
ここまで Hagakure 構造を取り上げてましたが、実際にどの点がメリットでどの部分がデメリットなのかを客観的に判断するためにも比較を行います。
実際に Hagakure 構造以前に、Googleが推奨していたアカウントがあります。それが「1広告グループ1キーワード」アカウント構造です。
Hagakureの具体的なメリット、デメリットの前に、この「1広告グループ1キーワード」構造を確認しておきましょう。
「1広告グループ1キーワード」構造とは、その名の通り1つの広告グループに対して、1つのキーワードを対応させる構造のことです。「Hagakure とは?」の章で解説した通り、 Hagakure 以前は細分化された構造が好まれていました。
なぜ細分化された構造が好まれていたのでしょうか。一言で言えば、管理のしやすさにあります。
入札調整を手動で行う場合、広告マッチタイプ(キーワードとユーザーの検索語句をどの程度一致させるのか指定すること)やキーワードの掛け合わせ単位で、アカウント構造を細分化するとひと目で管理しやすくなります。
特にそれぞれキーワードごとにマッチタイプを変化できる点は、運用上も小回りが効くため大きなメリットと言えるでしょう。
次に「1広告グループ1キーワード」構造のデメリットについてです。前述したメリットがあれば、「1広告グループ1キーワード」構造は問題点がないように思えます。
しかし、アカウント構造が細分化されたことが原因で以下の4つのデメリットが発生します。このデメリットがメリットを上回ったため、Hagakure が推奨されるようになりました。
前述の通り品質スコアは、「推定クリック率」「広告の関連性」「ランディングページの利便性」の3つの評価軸変化するとのことでしたね。
「それぞれの評価軸なら、アカウント構造を変えても変化なくない?」と思った方、鋭いです。
実は前提となるインプレッション(表示回数)がないと、広告の品質スコアをきちんと評価してもらえないんですね。
具体的には以下のようなことが起こります。どちらが良い広告でしょうか?
A:表示回数:8,000回 , クリック数:800回 , クリック率:10%
B:表示回数:10回 , クリック数:3回 , クリック率:30%
Aの広告はBに比べてクリック率が低いです。しかし、Bのクリック率は表示回数が少なすぎて評価に困りますよね。
広告グループが細かく設定されると、その分1つの広告グループあたりの表示回数が減ってしまいます。これによって品質スコアで正確な評価をしてもらうことができなくなります。
ユーザーが検索した際に、リスティング広告を目にするまでの仕組みを簡単に説明します。
検索に対してどの広告が表示されるかは、自アカウントの広告を含めた世界中の広告グループでオークションを行います。
そう、自アカウントを含めるのです。
1広告1キーワード広告アカウントで構築すると、キーワードの組み合わせによっては自アカウント内で広告の表示回数が分散してしまいます。
例えば、「液晶テレビ 購入」「4Kテレビ 購入」「有機elテレビ 購入」のキーワードがある3つの広告グループ、マッチタイプは部分一致で「テレビ 購入」と検索されたとします。kの時、それぞれの広告に表示機会が訪れます。
全ての広告グループが表示されるわけではなく、自アカウント内で最も広告ランクが高い広告が表示されたとします。「4Kテレビ 購入」が最も広告ランクが高かったとしたら、以下のような状態になります。
「4Kテレビ 購入」は自アカウント内での競争に勝った形になり、他のアカウントとの競争して掲載順位が決まります。自アカウントの残り2つの広告「液晶テレビ 購入」「有機elテレビ 購入」は表示機会を失った形になります。
近年のGoogle広告は機械学習(AI)を用いて、自動入札機能やコンバージョンオプティマイザーなどの「データを収集し、運用改善に活用する機能」が標準的になってきています。
機械学習では、データを集めてAIに学習させることで精度を上げていきます。そのため表示回数の少ない「1広告グループ1キーワード」のアカウント構造だと非常に相性が悪いです。
アカウント構造を細分化すればするほど、それぞれで広告の入札やマッチタイプが管理できる反面、運用工数がかかります。運用者(人間)の時間も有限ですので、広告文の作成やキーワード選定にかける時間も合わせると膨大なものになってしまいます。
機械に比べて人間はクリエイティブな部分が得意です。広告の管理に膨大な時間を費やすより、広告文のブラッシュアップに時間を割く方が理想的だといえます。
Googleは広告や検索エンジン以外の分野でも、GoogleMapに機械学習で渋滞予想の機能を搭載したりと、機械学習をメインの技術として多用しています。そのため、「1広告グループ1キーワード」にとっては向かい風な状況は今後も続くと考えられるでしょう。
参考記事:「Google マップ:AIが交通量を予測し、ルートを決定する方法」
細分化された1広告1キーワード広告アカウントに対し、Hagakureはできるだけシンプルな構造にすることでインプレッション(表示回数)を集約するという考え方です。
Hagakure構造が、各広告グループにデータが溜まりやすい構造なのがご理解いただけると思います。
そして、データ(インプレッション)を蓄積させることで、各キーワードに対する品質スコアも正しく評価されるだけでなく、機械学習を用いた自動入札やコンバージョンオプティマイザーといった機能もしやすくなります。
それではHagakureの具体的なメリットとデメリットを紹介します。
Hagakureのメリットは以下の4つです。それぞれ解説します。
正確にはインプレッションが集約されるため、キーワードと広告、広告とLPの関係性が正しく評価されやすいということですね。1広告1キーワードのアカウント構造の時に出した例をもう一度上げます。
A:表示回数:8,000回 , クリック数:800回 , クリック率:10%
B:表示回数:10回 , クリック数:3回 , クリック率:30%
表示回数の数が多いほど、クリック率の信頼性が上がるためGoogle側も正確な評価がしやすいです。これは経験談ですが、最低でも表示回数は1,000ないと評価されないような印象があります。
Hgakureでは、広告グループで比較的類似のキーワードを同じグループでまとめます。そのため、自アカウント内で広告が競合する…なんてことは起こりません。
1広告グループ1キーワードのアカウント構造のデメリットを打ち消せます。
アカウントの構造上、インプレッションが溜まりやすいため機械学習が機能しやすいです。広告グループやコンバージョンオプティマイザーといった機械学習を用いた機能が安定します。
ある程度情報が溜まるまでは、入札ステータスは「有効(学習中)」とでます。しかし、一定期間が経過し自動入札で適切な入札が繰り返されるとクリック単価も安定しやすいという印象があります。キーワードや商材にもよりますが、広告の開始より3分の1-半分くらいまで単価が落ちることもありました。
1広告グループ1キーワードに比べて運用工数が大幅に落ちます。シンプルなアカウント構造のため、個別の入札や管理をする必要がありません。
Hagakure では広告運用における管理の部分に時間がかからず、結果に対する考察や広告文といったクリエイティブ分野に運用者の時間を使えるようになります。
Hagakure がGoogleから推奨されてはいますが、残念ながらデメリットもあります。実際に Hagakure で運用していて感じるデメリットを解説します。
部分一致等のマッチタイプの扱いが特に難しく感じます。
部分一致で出稿すると、絞り込みが広いため、意図しないキーワードまで広告を配信してしまう反面、誰も気づいていないお宝キーワードを発見することができます。これを金額を決めて低コストで運用することで、メリットを享受しやすいです。
しかし、個別キーワードでの入札管理等はできないためこのやり方で行うことができません。そのためベースの運用方法は、2語以上の絞り込み部分一致キーワードを大量に入れています。「+ウォーターサーバー +購入」「+ウォーターサーバー +レンタル」のようなイメージです。
そしてお宝キーワードを拾いたい時には最初の数日間は部分一致で行う、探したいときに1日と限定して全体を部分一致に変えてみることで対応しています。
こうした管理の工夫が必要になる点はデメリットといえます。
Hagakure 構造は、最初に一定の時間をかけてインプレッションを貯める必要があります。キーワードや商材によって差はありますが、約2週間はデータを蓄積する期間として必要になります。その間のクリック単価は若干高くなります。
Hagakure 構造では、複数の単語で構成されるキーワードを大量に入れることが多く、キーワードと広告テキストがズレやすいです。そのため「広告カスタマイザ」を導入する必要があります。こちらは実際に Hagakure に導入する際に詳しく解説します。
実際に弊社でリスティング広告を依頼していただいたアカウントがあります。
Hagakure 構造に変える時のポイントと、変えてみて2週間程度でどのくらい変わったのかをチェックしてみます。
実際に Hagakure 構造に変更するときに必要になるのは、広告カスタマイザです。
広告カスタマイザとは、ユーザーの検索キーワードや場所、時間などに合わせて、広告文の広告見出しや文章などのテキストを動的に変更することができる機能です。
Hagakureでは、広告グループに複数のキーワードが入ることが考えられます。例えば、「イタリアン 新宿」「イタリアン 渋谷」「イタリアン 恵比寿」のように、「イタリアン+地名」という構成で広告グループを組んでいくとします。
このとき、広告文は同じ数登録できません。そのため、キーワードごとに地名が異なり、広告側もキーワードがマッチせず関連性の高さをアピールできなくなってしまいます。
そこで広告の見出しや、広告文章での地名の部分を「動的に」変化させることができるのが広告カスタマイザのわけです。
詳細な設定方法は、今後別記事で書きますが、このキーワードが出る時は見出しや広告文を同じキーワードに変化させる。というのを対応させてGoogle広告にエクセルをアップします。
約2週間が経過した結果です。それまでは品質スコアは3前後でしたが7-10と大きく伸びたことがわかります。
今後もアドテクノロジーは進化していくことが考えられます。今回のHagakure構造のように、その時々によって適切なアカウントの設計も変化していくかもしれません。
ここでのポイントは「AIをどう使い、ヒトはどこに注力すべきか?」にあると思います。ヒトはヒトにできることに注力する方が広告の結果もついてきます。
運用工程の中でAIの使用場面はそれぞれ変わります。リスティング広告では広告を出稿してから、「入札・キーワード管理」「結果の分析」「次の施策の作成」と3つの工程で流れていきます。
この中でAIのできることと、苦手なことをみていきましょう。
こちらはHagakureでも紹介しましたが、AIは得意な領域でしたね。今後はその精度も上がっていき人的工数は減っていきます。
そのためこの点に時間を割くのはナンセンスです。
実は結果の分析は、AIではできません。例えば、広告Aより広告Bが伸びた原因は、数値的な理由以外にも膨大な要因がありますよね。例えば以下のような理由があがります。
こうした数値以外の定性データを加味した分析に、ヒトの時間を使いましょう。
今後の施策とは「分析の結果、次に何をするか?」に当たる部分です。具体的には、広告文の追加/削除になります。広告文の作成のようなクリエティブな作業は、AIにはできません。
例えば、分析によって男性向けに広告を作ったにもかかわらず、女性の方が見ている数が多かったとしたら、新しく女性向けの広告文Cを作るべきですよね。
運用結果から、ユーザーや検索意図をきちんと考えて次の改善施策(広告文の作成等)に落とし込むことはヒトにしかできません。
分析・今後の施策、PDCAのサイクルを高速化できるという点がAIを使う最大のメリットと言えるでしょう。
今後の広告施策についてお悩みがあれば、クラインもご相談や施策の提案が可能です。ご興味があればぜひサービスページをご覧ください。
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